仙台地方裁判所 昭和23年(ワ)78号 判決
原告 柴原良平
被告 岡本孝次郎
一、主 文
被告が昭和二十年二月二日訴外渡辺金之助に対する仙台地方裁判所々属公証人上野魁春作成第五万三千六百六十六号公正証書の執行力ある正本に基ずき別紙目録<省略>記載の物件につき為した強制執行中同目録一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹、五の硝子戸三枚中一枚及び六の硝子戸二枚にかゝる部分を除きその余を取消す。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを十分しその九を被告、その余を原告の負担とする。
本件につき当裁判所が昭和二十三年五月二十五日なした強制執行停止決定中、別紙目録記載の物件中一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹、五の硝子戸三枚中一枚並に六の硝子戸二枚にかゝる部分を取消しその余を認可する。
前項に限り仮りに執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十年二月二日訴外渡辺金之助に対する仙台地方裁判所々属公証人上野魁春作成第五万三千六百六十六号公正証書の執行力ある正本に基き、別紙目録記載の物件につき為した強制執行は之を許さない。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、別紙目録記載の物件は何れも元訴外渡辺金之助の所有であつたが、訴外増沢千代之進は昭和十七年五月十二日右渡辺に対する債務名義の執行力ある正本に基き同目録一、二の物件の差押を為し、又訴外石川信は昭和十八年十二月九日同様同目録三乃至八の物件の差押を為し、被告は昭和二十年二月二日渡辺に対する仙台地方裁判所々属公証人上野魁春作成第五万三千六百六十六号公正証書の執行力ある正本に基ずき別紙目録記載の物件について照査手続を為さしめた。しかるに、その後右増沢及び石川両名の為した差押は取消されたので右差押は被告の為続行せられることゝなつた。
けれども、訴外佐藤麟五郎は昭和二十年三月二十四日渡辺からその所有の宮城県遠田郡小牛田町南小牛田字町屋敷三十五番の一、宅地二十五坪八合、同三十六番宅地百十坪、同三十七番宅地百十坪、同三十八番の一宅地二十五坪八合及び同三十六番三十七番接続地所在家屋番号第二十二番木造瓦葺平家建居宅店舗一棟建坪三十一坪、木造瓦葺二階建店舗一棟建坪二十二坪五合外二階十七坪二合、木造瓦葺二階建倉庫一棟建坪十坪外二階九坪、木造瓦葺便所一棟建坪一坪、木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建物置一棟建坪三坪、木造瓦葺平屋建倉庫一棟建坪十五坪、木造瓦葺平屋建浴室一棟建坪二坪、土蔵造木羽葺平屋建倉庫一棟建坪十一坪二合と共に前記差押にかかる物件を買受け、原告先代柴原正は更に同年四月上旬頃右佐藤から右宅地四筆建物八棟及び右物件を買受け翌二十一日佐藤の同意を得て右宅地四筆及び建物八棟につき渡辺から直接正に所有権移転登記を経由し、次で、同年六月下旬佐藤から前記建物八棟及び物件の引渡を受けた。
仮りに右売買契約において特に別紙目録記載の物件を売買の目的とする趣旨を明かにしなかつたとしても、右物件は前記建物の常用に供されていたもの、すなわち、別紙目録一、二の箪笥は前記建物の一部にはめ込まれた所謂はめ込み式の箪笥であり、その他の物件も亦それぞれその用法に従い何れも前記建物の継続的利用に供せらるべきものとして之に附属せしめられていたものであるから前記建物の従物である。したがつて右建物の買受に随い前記正の所有に帰したものである。
而して、原告先代は昭和二十二年一月三十日死亡し、原告が家督相続をなしたのであるが、別紙目録記載の物件については全然差押の標示は存在せず、正は之等が差押に係るものであることを知らずに引渡を受けその占有を開始したのであるから、原告先代は民法第百九十二条に依り之等の物件を即時に取得したのである。したがつて原告はその所有権を以て被告に対抗し得るのであるから、被告の前記強制執行の排除を求める為本訴請求に及んだ次第であると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の事実中、別紙目録記載の物件が元訴外渡辺金之助の所有で、訴外増沢千代之進が右物件中一部のものの、次で訴外石川信がその残りのものの各差押を為したこと、昭和二十年二月二日被告が原告主張の債務名義の執行力ある正本に基き右物件全部の照査手続を為さしめたこと、その後増沢及び石川両名の差押は取消されたこと、渡辺が原告主張の宅地建物を訴外佐藤麟五郎に売渡したこと、別紙目録三乃至八の物件が右建物の常用に供されていたこと及び原告先代が昭和二十二年一月三十日死亡し、原告が家督相続を為したことは何れも之を認めるけれども、渡辺金之助が別紙目録記載の物件を佐藤に売渡したこと、別紙目録一、二の物件が原告主張の建物の従物であること、本件差押の標示が存在しなかつたこと及び原告先代が善意無過失であつたことは否認する、その余の事実は知らないと述べ、仮りに別紙目録記載の物件が原告主張の建物の従物であつたとしても、渡辺金之助は原告主張の宅地建物を佐藤麟五郎に売渡す際、之等が現に差押を受けていることを告げ特に之を除外して売買契約をなしたと述べた。<立証省略>
三、理 由
別紙目録記載の物件が元訴外渡辺金之助の所有で、訴外増沢千代之進が右物件中一部のものの、次で訴外石川信がその残りのものの差押を為し、被告が昭和二十年二月二日原告主張の債務名義の執行力ある正本に基ずき、右物件全部の照査手続を為さしめ、その後、増沢及び石川の為した差押は取消となつたこと、渡辺が同年三月二十四日原告主張の宅地四筆及び建物八棟を訴外佐藤麟五郎に売渡したことは当事者間に争がなく、成立に争がない甲第一及び第五号証証人柴原とよ、佐藤麟五郎、渡辺金之助及び同鈴木琉助の各証言によれば、佐藤は同年四月二十日附右宅地四筆及び建物八棟を原告先代柴原正に売渡し、同月二十一日佐藤の同意を得て中間登記を省略し、渡辺から直接正に所有権移転登記を経由したことを認めることができる。
原告は訴外佐藤麟五郎は右宅地四筆及び建物八棟と共に特に別紙目録記載の物件を買受けたと主張するけれども、証人佐藤麟五郎の証言中之に符合する部分は信用できないし、他にはこれを認めるに足る証拠はない。けれども、右売買の当時別紙目録三乃至八の物件が右建物中店舗及び居宅店舗各一棟の常用に供されていたことは当事者間に争がなく、証人柴原とよ、佐藤麟五郎、渡辺金之助(一、二回)の各証言被告本人尋問の結果(一、二回)及び検証の結果を綜合すると、別紙目録一、二の箪笥は何れも右居宅店舗の十二畳間の押入に填込む様製作されたものでその常用に供するためこれに附属せしめられていたものであることを認めうるから、別紙目録記載の物件はいずれも右建物の従物であつたと解すべきである。被告は渡辺は佐藤との間の前記売買に当り特に右物件を除外したと主張するけれども、証人渡辺金之助の証言(一、二回)中之に符合する部分は信用できないし、他には之を認めるに足る証拠はない。証人柴原とよ及び同佐藤麟五郎の各証言によれば佐藤と原告との売買の際には特に別紙目録記載の物件をも売買の目的に包含せしめることとしたことを認めることができ、右認定を妨げる証拠はない。
而して、証人渡辺金之助(一、二回)佐藤麟五郎、柴原とよ、佐藤秀一の各証言及び検証の結果によれば原告先代柴原正と佐藤との間の前記売買が成立した当時渡辺はいまだ前記建物中の右店舗及び居宅店舗中に居住しており、昭和二十年六月末頃になり、右建物中の二階建倉庫一棟建坪十坪外二階九坪位を改造し、其処に右居宅店舗から畳八枚及び別紙目録一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹を運びこゝに移転して右店舗及び居宅店舗を明渡し、このことを佐藤に通知し、佐藤は更に之を正に通知し、正の妻柴原とよは掃除の為及び正の代理人として赴き右居宅店舗及び同建物内の別紙目録一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹、五の硝子戸三枚中一枚及び六の硝子戸二枚を除くその余の別紙目録記載の物件の引渡を受けたこと、前記差押の標示は別紙目録一の(イ)乃至(ホ)及び二の箪笥に対するものは全部抽斗の内部に貼付して為し、同目録中の他の物件に対するものは一括して公示書を作成し附近に貼付して為したが、渡辺が前記居宅店舗を明渡す頃には既に右公示書は失われており、とよがその引渡を受けた際には渡辺方に持去られた箪笥二棹中少くとも一棹には右差押の際に貼付された標示はそのまま存したが右居宅店舗に残された四棹に貼付されたものは何者にか取去られ、とよが右箪笥を改めた際にはその一棹の一番上の抽斗中に麻紐で結んだ鍵が二、三個あつたゞけで右標示は目に止まることができなかつたことを認めることができる。
又、証人佐藤麟五郎、柴原とよの各証言によれば、とよは前記店舗及び居宅店舗の引渡を受けた際前記箪笥二棹が見えずその引渡を受けることができなかつたので佐藤に交渉した結果佐藤は渡辺と共に正を訪れ、爾後渡辺が正から無償で借受けることゝなつたことを認めることができ、証人渡辺金之助の証言(一回)中右認定と矛盾する部分は信用できないし、他には右認定を覆すに足る証拠はない。
よつて、佐藤及び正が順次別紙目録記載の物件の所有権を取得したか否かを判断すると、先ず、佐藤についていうと、差押にかかる動産についても民法第百九十二条の適用があると解すべきであるけれども、前記認定事実によれば佐藤は渡辺から前記宅地四筆及び建物八棟を買受けるとその引渡を受けることなく直ちに之等を正に売渡し、渡辺から前記店舗及び居宅店舗の明渡を為したとの通知を受けると、漫然これを正に通知したのみで、その受領を為さず、正の受領に立会うことすらしなかつたのであるから、したがつて、別紙目録記載の物件中右店舗及び居宅店舗に附属せしめられたものの引渡すらこれを受けたと解することができず、又、同目録一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹についてはとよからの申入れにより、渡辺に交渉し、爾後渡辺は正から無償貸与を受けることと為したというのであるから、右物件についても亦その引渡を受けたと解することができず、前記法条の適用の余地がなく、前記差押の効果として右目録記載の物件はいずれもその所有権を取得することができなかつたといわなければならない。次に、正についていえば、前記認定事実によれば、正は別紙目録記載の物件中一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹、五の硝子戸三枚中一枚並に六の硝子戸二枚を除く物件についてはとよが同人の代理人として前記店舗及び居宅店舗の引渡を受けた際同時にその引渡を受け、同目録一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹については、之につき渡辺との間に貸借が成立したとき占有改定によりその引渡を受けたと解すべきである。而して、証人柴原とよの証言によれば正もその代理人として関与したとよも別紙目録記載の物件が差押となつていたことはきかなかつたことを認めることができるから、この事実と前記認定事実に照し、とよ又は正は同目録記載の物件中一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹を除くその余のものについて為されていた前記差押及び佐藤がその所有権を取得しなかつたことを知らず且これ等を知らないことについて過失はなかつたと認めるべきである。けれども右目録一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹中一棹には差押の標示がその抽斗の中に貼付されていたのであるから、僅かの注意を用い右箪笥を調査すれば直ちに右標示を発見することができ、このことから他の一棹についても差押されていることを知ることができたと考えられるにもかゝわらず、之等が渡辺の住居に持去られていることを知るや之を確めることすらなさず、同人の乞を容れ漫然之を貸与することゝ為したのであるから、正は右箪笥二棹が前記差押を受けていたことを知らなかつたことについて過失がなかつたということはできない。右の通りであるから正は民法第百九十二条により別紙目録記載の物件中一の(ラ)及び(ホ)の箪笥二棹五の硝子戸三枚中一枚並に五の硝子戸二枚を除くその余のものについてはその所有権を取得したと解すべきであるけれども、右目録一の(ニ)及び(ホ)の箪笥二棹については前記差押の効力を受け之を取得することができなかつたといわなければならない。
したがつて、別紙目録記載の物件中正が取得したものに対する前記差押は爾後違法に帰したというべく、正が昭和二十二年一月三十日死亡し、原告がその家督相続を為したことは当事者間に争がないから、原告の本訴請求は右違法に帰した強制執行の排除を求める限度で理由があるから之を認容し、その余は失当として之を棄却すべきである。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条を、強制執行の停止決定の取消及び認可並に之が仮執行宣言につき同法第五百四十九条第四項、第五百四十八条第一、二項を適用し主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖 飯沢源助 伊藤和男)